レバノン留学者向け情報

レバノンは現在、極めて人気の高い留学先の一つですが、残念ながら留学生向けの情報は多く発信されていません。今後益々増えるであろうレバノンへの留学生向けに、留学お役立ち情報を発信します。

ロストバゲージ

 以前にも同じことを書いたが、レバノンを訪れる留学生は、ほとんど必ず、空路でやってくるはずである。というのも、レバノンが国境を接している国はイスラエルとシリアの二カ国しかない。しかし、イスラエルとは国交がないので陸路でイスラエルからは(相当の危険を犯さない限り)入国できない。また、シリアには各国の当局から退避勧告が出されているので、シリアからレバノンに陸路でやってこようという留学生の数は(シリア人でなければ)非常に限られると思われる。海路はといえば、トルコのどこかからトリポリまで船が出ているという話をきいたことがあるが、詳細はよく知らないし、これも留学生が利用するとは想定しがたい。つまり、ほとんどの留学生が飛行機に乗り、ベイルートのラフィーク・ハリーリー空港で降りてレバノンに入国するであろう。

 しかし、航空機に乗るということは、ロストバゲージのリスクを伴う。特に、ベイルートの場合、直行便が飛んでいる国・都市は限られる。例えば日本からはベイルートまで直行便が飛んでいないので、乗り継ぎ便を利用することになる。乗り換えを伴う旅程は、ロストバゲージの確率が高くなる。レバノンを訪れる留学生は、ロストバゲージのリスクに晒されているのだ。

 そこで、ここでは、将来の留学生たちの参考となるであろう、筆者のロストバゲージの経験を共有したい。

 筆者は以前所用でダブリンを訪れたのだが、この際、ルフトハンザ航空を利用し、フランクフルト経由でベイルートへ帰る予定であった。しかし、ダブリンからフランクフルトへ着き、ベイルート行きの便の搭乗を待っていると、「当便はオーバーブッキングのため、別便に振り替えて下さる方を一人募集します。振替便のベイルート到着は24時です。協力してくれた方には400ユーロ差し上げます。」というアナウンスがあった。このオファーは筆者にとって魅力的であった。400ユーロはかなりの大金である。航空券の4分の3以上返ってくることになる。しかも、ベイルート24時着ということは、フランクフルトを17時ごろに出発することになるはずだ。その時はまだ11時前。つまり、フランクフルトを観光する時間もあるわけである。

 そこで、筆者は搭乗口のカウンターへ行き、振り替えられる便の詳細を聞きにいった。筆者はてっきり次のフランクフルト­­—ベイルート便に振り替えられるのかと思っていたが、実は一旦フランクフルトからニースへ飛び、そこでミドルイースト航空(レバノンの航空会社)に乗り換えて、ベイルートへ向かわなければならないらしい。ただ、それでもフランクフルトを観光する時間はあるし、受付の人も「観光できるなんてあなたにとってとてもいい機会ですよ」と勧めてくるので、オファーを受けることにした。その際、荷物のことが気になり、その扱いを聞いてみたが、「ベイルートまでチェックインされているから大丈夫」だという。とりあえずその場でニース行きの搭乗券は発券してもらい、ニース—ベイルート便の詳細はあとからメールで送ってもらえることになった。この他、協力金400ユーロの引換券と、空港内で使える10ユーロの食事券をもらえた。協力金の引換券は、空港内の別の場所にあるルフトハンザのサービスカウンターに持って行けば、現金をもらえるかクレジットカードへの振り込んでもらえるという仕組みである。筆者は諸々こうした手続きを済ませ、フランクフルトを2時間ほど観光し、空港へ戻ってきた。

 ところが、空港のフリーWifiに接続してメールを確認してみたところ、送ってくれるはずだったニース­­—ベイルート便の詳細が届いていない。仕方がないのでルフトハンザの窓口に行き、この便の情報をプリントアウトしてもらった。また、荷物について再び気になったので再度確認してもらったところ、問題なくベイルートに一緒に届くことになっているとのことだった。

 ニース便の搭乗を待ちながら先ほどもらった次便の情報を眺めていると、どうやらニースでは乗り換え時間が1時間しかないうえ、ターミナル間の移動もしなければならないことがわかった。そこでニースのコートダジュール空港でのターミナル間移動について軽くインターネットで検索して、乗り換えダッシュを覚悟したところで、ニース行きに便に搭乗した。周りはいかにも「これからニースに行くぞ」という格好をしたバカンス客ばかりである。

 ニースに着くと、まず(予想はしていたが)タラップを降りてバスで建物に向かわなければいけない。これでまず時間を取られる。建物について、“Transfer”のサインを辿ってぐんぐん進んでいくと、ベルトコンベアーの並ぶ荷物受け取り所にやってきて、最後には空港の出口に辿り着いてしまう。しかし、どこを見回しても“Terminal 2”のへの方向を示す案内板はない。先ほどネットで検索した際、ターミナル間移動はバスと書いてあったので、“Bus”と書かれた出口を出てみるが、そこにも“Terminal 2”の文字はない。仕方なくそばを歩いていた重武装の警備兵に聞いてみると「あっちだ」と指さす。潮のにおいをかぎながらその方向へしばらく走ってみると、やっと“Terminal 2 →”という案内がある。それに従って更に走り、ターミナル間シャトルバスのバス停に着いた。

 フランクフルトで貰った次便の情報には「最終チェックイン時間 18:15」と書かれていたのだが、時既に18:25。もし次便に乗り遅れても自分のせいではないので、もしかしたらニースで一泊させてくれるのではないかなどと淡い期待を抱く反面、何か難癖をつけられて責任転嫁され、ニースの宿泊費とベイルートへの航空券代を自分で負担して翌日帰らなければならないのではないか、などといらぬ心配をしている内に、バスが到着した。しかし、バカンス客でいっぱいのこのバスは、ターミナル間を直接結ぶのではなく、「駐車場1」「駐車場2」など意味不明なバス停をいくつか経由してから、ターミナル2に到着した。バスを降り、ミドルイースト航空(MEA)のチェックインカウンターまで走ってゆくと、職員が2人いるが、客は一人もいない。「ルフトハンザに振り替えられた者だが」というとわかったと言って手続きしてくれた。どうやら間に合ったらしい。筆者の直後にも息を切らして泣きそうになりながら駆け込んできた客がいた。職員がトランシーバーで「客が他にもいるからすこし待って」というようなことを誰かに伝えていたので、かなりぎりぎりだったのかもしてない。

 とにもかくにも、こうして筆者はやっとベイルート行きの飛行機に乗れたのである。MEAは筆者に言わせればサービスがルフトハンザよりもよい。例えば食事はMEAの方がおいしい。また、ルフトハンザのベイルート—フランクフルト便はある程度高額で4時間もかかるのに、座席にスクリーンがついていない。だが、MEAのニース—ベイルート便は3時間半のフライトでちゃんとスクリーンがついており、見られる映画やドラマもある程度充実している。MEAに振り替えてもらいすこし得したかもしれない、などと思いながら、筆者はベイルートに到着した。

 しかし、その喜びも束の間であった。入国審査を経て、荷物受取所のベルトコンベアーの前で荷物が出てくるのを待ったが、どれほど待てども出てこない。同じ境遇の人が他にも5−10人ほどいるようで、「君もニースか、荷物はきたか」などと確認しあっている。これはどうやらロストバゲージである。

 仕方なくロストバゲージ用のカウンターへ行き、パスポートや搭乗券、ダブリンでもらった荷物の引換券などを提示し、捜索願を登録してもらう。「今はどこにあるかは分からないが、ベイルートに届いたらSMSで連絡するので取りに来い」とのことである。家まで届けないのかと聞くと、「レバノンのガバメント・ポリシーでデリバリーはない」らしい。筆者は空港から渋滞がなければ15分のところにすんでいるからいいが、遠くの人はどうするのか。車がない人は交通費だってかかる。酷い話である。とにかくこの日は荷物を引き取る際に必要な“Property Irregularity Report”という紙だけもらって家に帰った。

 翌日、よくよくこのirregularity reportを読んでみると、“colour/type”の欄に“blue/soft material”と書いてある。確かに色は聞かれたが、柔らかいか固いかは聞かれていない。ちなみに筆者のスーツケースは固い。勝手に適当なことを書かれたのである。おそらくは姿形ではなく荷物についているタグで判断するであろうから、この情報がどこまで重要かは分からなかったが、少し不安になり、電話して変更してもらうことにした。

 Irregularity reportには電話番号が二つ書いてあったので、とりあえず一つ目の番号に電話してみた。すると、アラビア語、英語、フランス語の順で「MEA荷物係です。しばらくお待ち下さい」というアナウンスが流れ続けたまま、なかなか繫がらない。仕方がないので二つ目の番号にかけてみると、今度は自動音声はなく、すぐ繫がった。しかし、「ロストバゲージについて問い合わせたいのだが」と英語で何度呼びかけてみても、相手は“Allo?”としか返さない。アラビア語で「英語は話せるか?」と聞くと、「いいえ。アラビア語で話して」と言う。「英語話せる人いないの?」と聞くと「あなた外国人?」そうだと言うと、電話口の向こうに向かって「外国人なんだけど英語話せる人いない?」と聞いている。程なく再び筆者に対して、に向かって「英語話す人いない。」と吐き捨て電話を切られてしまった。酷い話である。こちらの番号は諦めて、一つ目の番号に再度かけてみることにした。何度か挑戦していると、やっと繫がる。とりあえず英語で筆者の荷物が届いたか聞いてみたが、「まだ早い。早くても24時間か48時間かかる。明日電話して」と言われる。この間、私はずっと英語で話しているが、相手の返答は全てアラビア語である。最後に、「soft materialと書かれたのだが、hardに直してくれ」と頼む。“OK”などと言われたが、あまり期待しない。実はMEAのサイトでirregularity reportに記載された参照番号を入力すると、自分の荷物の状況が表示されるのだが、その日の夜に確認したところ、“soft material”と書かれたままだったので、恐らく変更してくれなかったものと思われる。

 翌朝起きてみると、午前5時頃にSMSが届いており、荷物がベイルートに届いたと書かれていた。とりあえず一安心である。その日の昼頃には空港から電話がかかってきて、「荷物が届いたから空港の到着フロアにあるLost and Foundまで来てくれ。朝9時から夜7時半まで毎日開いている。」とのこと。この電話では英語なんて話せないだろうと諦めて最初からアラビア語でやりとりしていたが、途中で「英語で話そうか」と聞いてくれたので、英語に切り替えた。

 翌日の朝、ついに荷物を受け取りに空港へ向かった。空港の到着フロアに着くと、建物に入って左端に、“Lost and Found”ではなかったが「荷物カウンター」というところがあったので、そこでirregularity reportを提示し、印を押してもらう。その次は空港の建物の反対側まで行き、軽いセキュリティーチェックを受け、二階(日本で言えば三階)に上がり、くねくねとした廊下の一番端まで歩いてゆき、そこでセキュリティーエリアに入るための許可証をもらい、再びエレベーターで到着フロアに降り、また建物の反対まで歩いてゆき、先ほどの「荷物カウンター」の隣にある検問所でセキュリティーチェックを受けなければならない。このセキュリティーチェックでは、パスポートを提示すると「中国人か」と聞かれた。荷物のことですこしいらいらしていた筆者は不用意にもいらついた態度で「日本人だ。そう書いてある」と言った。この筆者の態度に相手はすこし戸惑ったように見えたが、すぐに両手でバッテンを作ったポーズを見せ「空手はやっているのか」と聞いてきた。申し訳ないが、そのポーズでは空手ではなくスペシウム光線である。面倒くさいので微笑むだけで無視した。

 セキュリティーチェックを抜けると、ベルトコンベアーの並ぶ荷物引取所に出る。到着時にirregularity reportを発券してもらったロストバゲージのカウンターへ行き、再びreportを提示すると「どうぞ」と言ってカウンターの内側へ案内される。するとなにやら引き出しを開き、書類を探し始める。何を探しているのかと思いながら横で立って待っていると、「どうぞ、どうぞ、中へ(行っておいで)」と言って、カウンターの更に奥を指さす。その奥には、多数のロストバゲージが保管された倉庫があるのだ。つまり、自分で倉庫の中に入って荷物を探せということである。倉庫に入ってみると、所狭しと大量の荷物が整理もされず無造作に置かれている。床はべたついているし空気も悪い。この中を三周ほどしてみたが、自分の荷物が見つからない。少し焦って、倉庫を出て職員に「荷物はこれだけか」と聞いてみると、「向こうにもある」とカウンターの反対方向を指さす。カウンターの向かいにも、大量の荷物が並べられていた。そこにもあるならはじめからそう言って欲しい。カウンターの外側へ出て反対まで行くと、自分の荷物がすぐに見つかった。筆者は再会に安堵し、喜悦した。しかし、筆者の荷物は奥の方に置かれていたので、他の荷物をすこしかき分けて取り出さなければならなかった。その後は、税関を抜けて、他の到着客と一緒に到着フロアに出る。スーツケースを持って税関から到着フロアに抜けると、もう一度ベイルートに到着したかのような気分になる。とにかく、一件落着である。

 筆者のこの経験が、他の留学生の参考になることを願ってやまない

家探し

 衣食住の内、留学生を最も悩ませるものは「住」であろう。「衣」は、何を何着もっていくか、多少悩むことはあるかもしれないが、航空会社の重量制限とスーツケースの容量が許す限り出身国から持ってくれば、ベイルートで衣服に関する心配はしなくてよいし(そもそも現地で買えばよい)、「食」もここではほとんどなんでも揃う。しかし、「住」に関してはそこまで簡単ではない。幸運な留学生は、ベイルート到着前に既に大学の寮やホームステイ先が決まっているかもしれない。しかし、その他の留学生は、おそらく到着後10日から2週間ほど宿をとり、その間に住まいを探すことになると思われる。これがなかなか苦労するのである。ここでは、ベイルートで留学生が住居を探す際に参考になる可能性のある情報を記す。

 まず、留学生が住居を探すにあたって検討すべきは、場所である。自分が当面の留学生活において、最も多く時間を過ごす場所はどこかを考え(大学、語学学校、図書館、フィールドなど)、その場所から徒歩20分圏内を探すのがよろしい。というのも、ベイルートの公共交通は地元の者の言葉を借りれば“Shitty”であり、毎日公共交通を利用しての遠距離での移動・通学は時間と体力の浪費に繫がる(自家用車を所有していれば、この限りではない。ただ通勤時間帯の渋滞はひどい)。日本や欧米の大都市では、鉄道やバスを利用して、片道1時間ほどの通勤・通学は普通かもしれないが、ベイルートでは徒歩通学を強くおすすめする。また、ベイルートは夏は暑く、冬は毎日雨である。道路事情も悪く、道を一本渡るだけでストレスを感じる。毎日30分、40分の徒歩通学は現実的とは言い難い。従って、住居を探すのに最も適した場所は、上述の通り最も頻繁に通う場所から徒歩20分圏内ということになろう。

 ただ、ベイルートのとある場所から徒歩20分圏内といっても、土地勘がなければどこまでが徒歩20分圏内か分からない。家を探し始める前に、Google Mapなどを利用しつつ、自分の通いたい場所の近くにはどんな地名があるのか、ある程度把握しておくのがよいだろう。

 場所が決まれば、あとは予算と住まいの種類を決める必要がある。ベイルートは全体的に物価が高いが、家賃も例外ではない。多くの留学生の懐事情はおそらくそこまでよくないであろうから、家賃相場が高いと言う事実は、住まいの選択肢を狭め、留学生にとって家探しを難しくしている要因の一つである。

 住居の選択肢の一つとして、ホテル暮らしというのがあるだろう。しかし、平均的な留学生が長期滞在可能な環境と予算のホテルは、ベイルートにはほとんどないといっていい。例えば、日本の研究者御用達のメイフラワーホテルというホテルは、中級ホテルであり、当然清潔でお湯も十分出て、長期滞在は十分可能であるが、素泊まりで一泊約50〜60ドルである。すなわち、月々の家賃は1500〜1800ドルほどになり、とても留学生が住める値段ではない(そもそもこれだけの値段であればかなりいいアパートに住める)。すなわち、ホテルに住みたければ、ランクを落とさなければならない。しかし、ベイルートで例えば一泊30~40ドルといえばもう最低級のホテルであり、一泊10~20ドルというとホステルしかない。

 そもそもホテルの部屋には基本的にキッチンが付いていない。ベイルートは外食代も高いので、キッチン無しで生活するとその分出費も嵩む。ホテル暮らしでセレブな気分を味わうのは、ベイルートでは諦めたほうがいいだろう。

 ホテルよりもうワンランク落として、ホステルに泊まるという手段もある。ホステルであれば、一泊20ドル以内でかなり清潔な所もあるようだ。しかし、滞在期間にもよるが、1年、2年と何人もの見知らぬ他人と部屋を共有するのは困難かもしれない。また、留学生にとっての、勉強場所や本を収納する場所の重要性を考えれば、あまり賢い選択とも言い難い。食事に関しても、仮に共有キッチンがあっても、共有している人数が多いため、どこまで使えるかは定かではない。従って、ホステル暮らしもおすすめ出来ない。

 諸大学の近郊には、大学付属ではない学生向けの寮もいくつかあるようで、そういった所に住むという可能性もあるかもしれない。学生向けの寮に関しては、本稿の執筆者はあまり情報を有していないが、共有部屋であるのに、特に安いということもないようである。

 こうなると、一軒家に住むのはあり得ないとして(ベイルートの中心部ではそもそも見たことがない)、留学生が現実的に住む可能性が最も高い場所はアパートである。

 アパートには、当然「家具付き」と「家具無し」のものがある。留学生の場合、相当長期で滞在する場合を除いては、「家具無し」を借りて家具を揃えるよりも、「家具付き」を借りた方が安上がりの可能性が高い。また、到着直後の慣れない環境下で家具を揃える手間を考えても、「家具付き」の方がよいと思われる。ただ、「家具付き」と言っても、どのような家具があるかは物件ごとに当然異なる。特に、留学生にとって重要と言える勉強机、椅子は、大抵の場合極めて簡素なものしかついてない。また、デスクライトが付いている物件は(筆者の管見の限りでは)ほとんどない。こちらで購入するか、日本では折りたたみ式のものも売っているようなので、持って行ってもいいかもしれない。また、物件によっては、ベッドとマットレスだけあって枕その他の寝具を買いそろえなければならないところや、収納スペースはあるがハンガーはないところなどがある。その他諸々あるものとないものが物件によって異なるが、どこに住んでも生活雑貨に対するある程度の初期投資は避けられないであろう。また、物件によっては洗濯機がないところもある。これは要注意である。というのも、ベイルートには(筆者の知り限りでは)コインランドリーのようなものは存在しない。クリーニングはあるが、それほど安くはない(例えば、筆者の近所のクリーニング屋では、「キロ売り」といって、洗濯物1キロ約3.5ドルという価格設定の所がある。筆者の1週間分の洗濯は、下着を除いて2.5キロであった)。三種の神器の存在が当たり前の現代の留学生にとって、長期間手洗いだけで生活していくのは困難であると思われる。洗濯機の有無は確認しておくことをお勧めする(とはいえ、洗濯機無しで長い期間生活した留学生の方々もいるので、私のように面倒くさがりでなければ気にする必要はないかもしれないが)。

 また、エアコンの有無も重要である。夏は暑いので、エアコンなしの生活は厳しいかもしれない。冬であれば、なんとか暖房なしでも耐えられる寒さ(15〜20度程度)であるし、必要であれば電熱線ヒーターも安価で購入できる。

 この他、留学生にとって重要なのはWifiであろう。論文ダウンロード、研究者や調査協力者との連絡などにインターネットをつかうことがあるかもしれない。また、精神衛生上、YoutubeやNetflixの視聴が不可欠な留学生もいるだろう。スマートフォンがあれば、テザリングをするという手段もあるが、仮に大量のデータを消費する場合にはWifiがあった方がよい。家具付きアパート、特にシェアアパートの場合はWifiも付いてくることが多いが、月々の使用可能量は異なる。使い放題の所もあるが、中にはアパート全体で月100ギガまで、という所もある(シェアアパートの場合、100ギガを同居人でシェア)。また、シェアアパートの場合、ルーターがどの部屋に設置されているかも重要だ。自分の住む部屋から遠い部屋にルーターがあると、電波が届きにくいこともあるようだ(実際、筆者の以前住んでいた所では、筆者の部屋は電波が悪かった)。

 基礎的なインフラである水と電気についても、全てのアパートに当然のように備わっているわけではない。

 レバノンの水事情はあまり良くない。おそらく公共の水道水は雨期を除いて海水混じりであり、この供給も安定していない。そのため、ベイルート市内には大きなタンク車がたくさん走り回っており、様々な建物や施設に水を供給している。だが、このタンク車は別に公的なサービスというわけではなく、わざわざ水を買っている建物にしか水を供給しない。つまり、アパートにも水道水しかこない建物とタンク車から水が供給される建物のアパートがあるというわけだ。

 筆者が以前1ヶ月だけ住んでいたアパートの水事情はあまりよくないというか、複雑怪奇であった。まず、このアパートの入っている建物はおそらくタンク車から水の供給を受けていたのか、定かではない。筆者は1ヶ月の滞在でタンク車に1回だけ遭遇した気がするが、後述の通り、このアパートは水の供給も不安定で水もしょっぱかったので、果たしてタンク車から頻繁に水を供給されていたかどうかは疑問が残る。

 このアパートには、風呂場の上の屋根裏部屋に(ベイルートには天井が高い建物が多い)タンクがあり、そこにアパート用の水をためている。このタンクの水がなくなると、ポンプのスイッチを入れ、建物の中庭にあるタンクから水をくみ上げ、屋根裏部屋のタンクを満たさなければならない。この作業はだいたい1日1回必要である。しかし、3回に1回はスイッチをいれても全く水を汲み上げない。この場合、原因は二つ考えられる。一つは、ポンプの調子が悪い。この場合、1階に降り、建物の中庭にあるポンプのねじをゆるめ、再び閉めると、どういう訳か水を汲み上げ始める。二つ目の考えられる原因は、そもそもタンクが空になっているということである。地階の中庭には各アパートに割り当てられたタンクが並んでおり、自分のアパートのタンクに水が残ってない場合があるのだ。その場合、近くにあるマスタータンクからホースを引っ張り、自分のタンクに水を満たさなければならない。しかし、筆者がある日この作業をしていると、アパートの管理業務の一部を任されていると思われる、近所の店ではたらく少年がやってきて、「何をやっているんだ!」と聞いてくる。どうもひどく立腹しているようである。恐らく、見知らぬ外国人がポンプをいじっているのが気にくわないのであろう。少年が来たときには筆者は既に補給作業をほとんど終えており、また翌日には引っ越す予定であったので、適当にあしらっておいたが、もし仮にその後も住み続ける予定であったならば、面倒なことになっていたかもしれない(その後少年は「水が欲しいなら俺の店でミネラルウォーターを買え」と言ってきた。極めて非現実的な提案である)。

 だが、月に3~4回ほど、このマスタータンクにすら水がない時がある。この場合、水が再び供給されるのを待つしかない。こうなると当然、シャワーも浴びられずトイレも流せない。

 しかも、このポンプというのがうるさい。1階のタンクから屋根裏部屋のタンクへ水を汲み上げるポンプはキュウィインという甲高い音がするし、屋根裏部屋のタンクからアパートの各蛇口へ水を供給するポンプもブイインという音がするので、水道を使う度に大きな音がする。早朝に誰かがシャワーを浴びようものなら、安眠などできない。

 しかし、これほど苦労して得た水であるにも拘わらず、その質は決して高くない。恐らく海水含有率が高く、極めてしょっぱい。パスタをゆでるにはちょうどいいくらいだが、米を炊くと本当にまずい。また、塩分が多いせいかぬめぬめしている。

 しかもこのアパート、水が低質で供給不安定であるにも拘わらず、一部屋月額600ドルもするのである。私が1ヶ月で引っ越した理由もおわかり頂けるであろう。ちなみに、現在の滞在先は、家賃は前より安いにも拘わらず、水は安定的に供給されている。同居人によれば、多少しょっぱいようだが、以前のアパートの水に慣れてしまった筆者は全く気がつかなかった。

 レバノンは電力事情も悪い。ベイルート中心部では、毎日1日3時間、地区ごとに時間をずらして電力供給を止める輪番停電が実施されている。そのため、多くの建物には自家発電機がついている。だが、全ての建物に発電機があるわけではないので、自分の借りようとしているアパートに発電機があるか確認する必要がある。また、発電機も性能はそれぞれで、アンペア数によってまかなえる電力消費量が異なっている。例えば、筆者が以前住んでいた所では、停電中(発電機稼働中)はエアコンだけ消さなければならなかった。夏場日中に3時間エアコンを消すのは苦痛かもしれない。また、建物によっては、停電後すぐに自動的に発電機が稼働する所もあるが、筆者が以前住んでいた所では手動であった。停電が始まりアパートの電気が全て消えると、配電盤にある発電機のスイッチを入れなければならない。そして、電力会社からの通電が再開すると、もう一度アパートの電気が全て消え、配電盤で発電機のスイッチを切ると、再び電気が付く仕組みであった。だから、もし誰もアパートにいない場合、3時間停電する場合があったわけで、夏場の冷蔵庫のことを考えると少し不安である。とはいえ、発電機さえあれば、輪番停電以外の突発的な停電でも基本的に電気が消えることはない。一日3時間必ず停電があるおかげで、多くの建物に発電機があり、電気が24時間使えるわけだから、停電の多い他の国に比べればかえって事情は良いのかもしれない。

 この他、シェアアパートの場合、共有スペースの清掃サービスが付いていることも多い。家主がお手伝いさんを雇って、月に1〜4回ほど清掃してくれる。

 このようにアパートは家具付き、家具無し、基礎的なインフラの有無など、様々に条件が異なる。だが、完璧な条件で何不自由ない生活の出来るアパートを見つけるのは、留学生の予算ではなかなか難しいだろう(というより、仮に高額の家賃を払い、豪勢なアパートを借りても、この国では大抵なにか不便なことがあると思った方が良い)。例えば細かいことだが、だいたいどのアパートでもいくつかの扉や窓の立て付けが悪いなど当たり前であるし、発電機や水はあっても前述したアパートのようにその管理が面倒なこともあり得る。だいたいどの地域でも外はうるさい。アパートによっては水のポンプがうるさかったり、室外機がうるさかったりする。最低限、発電機と水、勉強机、Wifiなどがあれば、小さな不都合には目をつむるしかないと思われる。

 また、アパート暮らしと一口に言っても、その生活形態には大きく分けて3種類ある。すなわち、①アパートで一人暮らし、②シェアアパートで自らの部屋に暮らし、風呂キッチンは共用、③シェアアパートで更に部屋も共有、である。

 アパートで一人暮らしをする場合、当然、相応の家賃の支払いを覚悟しなければならない。日本では、一人暮らし向けのアパートというものは相当数存在するが、ベイルートのアパートは基本的に複数人で住むことを前提に建てられており、寝室が一つだけのアパート(studioと呼ばれる)というものは(存在はするが)見つけにくい。そのため、アパートで一人暮らしをしたい場合、寝室数が2室以上のアパートを借りなければならなくなる可能性が高い。つまり、必要以上の面積に無駄な金をかけることにもなりかねない。

 アパートの家賃は、当然ピンキリである。少し郊外に住んでいた方が家具無しで月250ドルほどであった(しかも少し前のこと)という話も聞いたことがあるが、筆者が探していた中心部(人気エリア)で家具付きだと、奇跡的に安くても月850ドル、普通は軽く1000ドル以上、といったところである。

 シェアアパートに住み、更にルームメイトと部屋を共有する場合、もちろん家賃は相対的に安いが、それほどコストパフォーマンスはよくない。例えば、大学の近くなどの一等地では、1ベッド300〜400ドルというところもある。上手く探せば、同じ値段で一部屋借りられる所もあるから、特段の理由がない限り、寝室まで他人と共有することもないと思われる。

 従って、本稿で筆者が最もお勧めする生活形態はテラスハウスのようにアパートをシェアしつつも、個人用寝室は確保することである。この場合、家賃は家具付きでだいたい350〜700ドルほどである。シェアアパートの家賃は、上述した様々な条件や立地だけでなく、リビングルームがあるかどうか、寝室数に対してバスルームかいくつあるかなどによっても変わってくる。また、シェアアパートの場合、家賃は「全部込み」である場合が多い。つまり、家賃に部屋代のみならず、水道代、ガス代、電気代、Wifi料金なども含まれており、家賃以外には何も払わなくてもよいのである。

 シェアアパートの場合、居住規則を定めている例もある。「食器はその日中に洗う」など基本的なものもあるが、筆者が物件探し中に遭遇した中には、「保守的な建物で、大家族も多く住んでおり、大家がdecencyを要求している」ので、「建物の入り口で泥酔しない」とか「頻繁に(性交渉目的で)人を連れ込んだり、近隣に聞こえるほどのワイルドなセックスはしない」という規則を定めているものもあった。

 こうした事情を把握したなら、いよいよ実際にアパート探しである。その探し方は様々だろうが、本稿では参考までに筆者の経験を紹介したい。

 結論から言えば、筆者はFacebookでアパートを探した。FacebookにはApartments in Beirut for Renters and Rennteesというグループがあり、多くの物件情報が掲載されている。家、アパート、部屋、ベッドを貸したい者が借り主募集の案内を投稿し、興味のある者が募集主に連絡を取る、という掲示板である。私の知り合いの外国人の多くがこのグループを使って住処を探している。投稿もほとんどが英語なので、外国人でも使いやすい。また、グループへの参加申請を出せば、借り主の側が「○○という条件で物件を探しています」という投稿を掲載することもできる。

 この他ネットで探す方法として、OLXを使うという手もある。OLXとはアラブ版メルカリのようなもので、物品を売り買いするためのサイト(アプリ)である。それこそメルカリのようにありとあらゆるものが売り買いされているが、貸しアパートや貸部屋も売り(貸し?)に出されている。ただ、こちらはアラビア語の広告も多く、不慣れな外国人にとっては使い勝手があまりよくないかもしれない。

 また、3ヶ月程度の滞在であれば、Airbnbで部屋を探すという手段もある。長期滞在者向けに割引価格を設定している物件もあり、値段交渉も可能なようだ。半年、一年以上の滞在でも、家主との交渉次第で宿泊可能かもしれない(そのような例は聞いたことがないが、家を探しているときにこの方法を勧めてきた人がいた)。ただ、ベイルートのAirbnb物件は人気が高いようで、まともな値段のものはかなり早くから予約が埋まっているようである。ベイルート到着後に家を探す方法としては適していないかもしれない。

 この他にも、道を歩いていてたまたま知り合った人に物件を紹介してもらったという筆者の知り合いもいる。不動産屋もあるようだが、あまり利用したという話を聞かない。

 さて、話をFacebookに戻そう。筆者はベイルート到着後から上述のFacebookのグループを一日何回か閲覧し、希望の地域の物件を探していた。しかし、当初思っていたほど借り主募集の投稿がない。筆者が住みたいと思っていた地域は大学が多くある地域であり、学生向きの物件は比較的多いはずなのだが、こうした物件のほとんどは新学期の始まる9月前までに埋まってしまうようで、筆者が物件探しを始めた9月下旬にはあまり空きが残っていなかったのである。とはいえ、いくつか良さそうな物件があったので、それぞれの募集主に連絡してみる(連絡には基本的にFacebookのMessennger機能が使えるが、Whatsappで連絡をとることを好む募集主も多いので、ダウンロード・登録しておくとよいだろう)。しかし、借り主募集の投稿がされてかた数日(3〜4日)も経った物件だと、既に借り主が決まってしまったと返信される場合があり、なかなか内見までこぎ着けるのですら苦労した。

 とにもかくにも、物件探しを始めてから2,3日後のある日、やっと内見の約束を3件取り付けることができた。内見はどの物件も家主ないし管理者が仕事などから帰宅した後の夕方以降に設定された。しかし、折角3件も見に行ったにも拘わらず、最も好条件であった1件目は「セレクション」に落とされ(内見に来た複数人のなかから住人を選ぶのである)、2件目は住人が怪しい人物でどう見ても訳あり物件であり、3件目は家賃が割高である。結局、内見初日には住処を確定することができなかった。その後数日探したが、新たに内見に値する物件は見つからない。ホテルのチェックアウト日も迫り、これ以上延泊しても首が回らなくなるので、仕方なく3件目の物件の管理者に「住まわせて欲しい」と連絡する。すると返信があり、実は同じビルにある別のアパートに一部屋空きが出来た、家賃は同じ、しかもこのアパートは最近内装をリフォームしたばかりだと言う。最終的には再度の内見の後、この物件に引っ越した。

 内見の際には、様々な条件(家賃は電気代などを含むか、いつから引っ越せるか)を確認したり、クーラーがきちんと稼働するかなどを確認したりするのがよいだろう。場合によっては値切り交渉も可能である。内見時に入居の合意をすると、物件によってはデポジットを要求される。特に賃貸契約書を書くわけでもないので、こうした物件探しは基本的に口約束の世界である。借り主が急に入居を取りやめるといった逆の場合もあるようで、それを防ぐためにデポジットを要求するのだ。また、逆に家主が裏切って入居の合意したはずなのに他人に貸してしまうことも稀にあるようである。とはいえ、借り主としては、家主の裏切りなど基本的には防ぎようがない。募集主が信頼に値する人物か、よく見極めるほかない。万が一だまされたときにために、1週間分のホテル宿泊費を準備しておくと良いのかもしれない。

 とにもかくにもこうして筆者は引っ越し先を確保したわけだが、それでも家賃は高いし、入居後に上述の水回りの問題なども発覚したので、この物件は仮の宿りとし、引き続きより安くより良い物件を探し続けることになった。

 とはいえ、やはり10月はあまり物件が動かないようで、なかなか良さそうな物件は見つからなかった。月末頃になって、前月に物件探しをしていたときに連絡を取っていた人から再び連絡が来るようになり、彼らが管理している他の物件を紹介してくれたり、他の空き部屋を紹介してくれたりした。最終的にはこのなかから、より好条件の物件に引っ越すことができた。ただ、引っ越しの決定が月末だったので、退去先の管理者からは翌月最初の1週間分の家賃を負担するよう要請された。多くの物件では長期間空室が出来るのを防ぐため、退去の1ヶ月前までには通告するよう要求しているところが多い。

 このような経緯を辿り、最終的にはかなり好条件の物件に住むことができた。部屋からベランダに出る窓の立て付けが悪くてたまに開かなくなる、隣室のエアコンの室外機が故障しておりけたたましい音がする、など全く無問題というわけではないが、この国で贅沢は言っていられない。今のところ満足である。

空港から市内へのアクセス

 ほとんどの留学生は、空路でベイルート入りするはずである。ベイルートはイスラエルとシリアと国境を接しているが、不幸にも現在、陸路でのレバノン入国は極めてスリリングな旅となるであろう(知り合いのシリア人によれば、シリアからレバノンへの道路は2017年11月現在比較的安定しているようで、現に私の知り合いの複数のシリア人が往来しているが、外国人は避けた方がいいかもしれない。このあたりは専門家でないのでよくわからない)。

 ベイルートのラフィーク・ハリーリー国際空港についた留学生たちは、住まいが決まっていれば住まいへ、決まっていなければ宿へ、それぞれベイルート市内の目的地へ向かわなければならない。本稿では、留学生の参考となるであろう、ラフィーク・ハリーリー空港からの市内アクセスについて記す。

 

 レバノンには現在残念ながら鉄道はない。また、空港から市内へは(「市内」の範囲によるが)おおざっぱに言って6〜12キロほどであるから、重い荷物を(場合によっては複数)持ち、土地勘もなく、SIMカードがないのでGoogle Mapもなく、この距離を長旅の直後に徒歩で移動するのは厳しい。従って、現実的には、自動車で市内の目的地に向かうことになる。

 

 収入の少ない留学生にとって、交通費はなるべく安く抑えたい。従って、バスがあれば好都合である。とはいえ、残念ながら空港の到着ロビーから市内へ向かう空港アクセスバスなどというものはこの国には存在しない。空港から少し歩いたところに市内バス5番が発着しているという情報があるが、筆者はまだ確認していない。また、地球の歩き方によれば、空港の出発ロビー(2階)から、ミニバンがたまにやってきて客を乗せるとのことだが、これも筆者はまだ確認していない。いずれにせよ、こうしたバスは、土地勘がないとどこで降りればよいのか、どこで降ろされるのか、降ろされた場所からどうやって目的地に向かえばいいのか、よく分からないし、そもそもバスは当然リムジンバスではなく、ミニバンやおんぼろの中型バスなので、多くの荷物をもった留学生にとっては不向きである。直接目的地まで運んでくれるタクシーに乗った方が良いだろう。

 レバノン関係者の知り合いがいる場合、運転手を紹介してくれるかもしれない。またホテルがタクシーを手配してくれる場合もあるかも知れない(ホテル手配のタクシーが30ドル以下なら利用することをお勧めする)。しかし、ここでは自力でタクシーを確保する場合について記そう。

 

 レバノンで最も安くタクシーの乗る方法はUberである。Uberなら空港から市内まで15ドル前後である。しかし、Uberを使うにはネット環境が必要だが、初めてレバノンに着いた留学生は、レバノンで使えるSIMカードがない場合がほとんどだ。空港にWifiもあるにはあるが、2017年9月時点では有料で、空港内の売店でクレジットを買わなければ使えず、そもそもどこでクレジットが買える売店があるのか筆者はよく分からない。ローミングを使ってUberに乗るくらいならリムジンでも予約した方が良い。従って、到着初日の留学生にとって、Uber利用は残念ながらハードルが高い。

 

 となると、空港の前に待機しているタクシーに乗るしかない。ところが、空港到着ロビー前のタクシー事情は、時期によって変化するようなので、到着してみないとよく分からない。そのため本稿おすすめの市内アクセスは、「空港に来てみて、到着ロビーを出て、様子を見てタクシーに乗る」という、全く役に立たないアドバイスになってしまう。それではあんまりかと思い、ここではあくまで参考として、2016年3月と2017年9月の筆者の経験を記す。

 2016年3月に筆者がレバノンを訪れた際、到着ロビーの外へ出ると、多くのタクシー運転手が待機しており、口々に「Taxi?」と聞いてきた。その内一人に声をかけると35ドルというので、15ドルと返すと(ネットで事前に調べた限り、最低価格は15ドルとの情報があった)、他の運転手を指さして、彼の所へ行くよう言われた。しかし、その運転手の許へ歩いてゆく途中、他の運転手に話しかけられ、20ドルでよいというので、彼について行くことにした。彼は私を連れて2階の出国ロビーへあがり、その前に止めてあった車でホテルの目の前へ送り届けてくれた。

 2017年9月にベイルートへ到着した際は、同じように20ドルくらいで市内に向かおうと考え、とりあえず到着ロビーの外へ出てみたが、予想を裏切り誰も私に感心を示さない(こんなことは中東の空港では初めてである!)。仕方がないので自分からロビーの前で待機している白塗りのタクシー(空港タクシーのロゴが入っている)に近づいてみると、40ドルだという。さすがに高いと思って断り、しばらくぷらぷらしてみたが、近辺には他に運転手もいない。背中と腹にリュックを背負い、大きなスーツケースも持っていたので、早く宿に着きたい。仕方なく先ほどの運転手の許へ戻り、40ドルに合意して載せて貰った。空港を出発する際には、軍人が車を止め、車のナンバーと私の名前、行き先をノートに記録する(聞くところによれば、これは最近始まった仕組みらしい)。空港を出る時、運転手が何やら装置をいじっているので見てみると、なんとメーターのスイッチを切っていた。メーターがあったとは!(後に聞いた所、これも最近ついたもので、メーターだと市内まで約35ドルらしい)この運転手はめんどくさがってホテルから10メートル離れた所に止め(荷物が多いのに!)、荷下ろしすら手伝わなかったにも拘わらず、チップまで要求する厚顔。もちろんチップなどくれてやらない。

 

 ということで、これを読んでいる留学生が着く頃にはまた状況が変わっているかも知れないが、こうした経験を参考にしてアドバイスするなら、余裕があれば2階の出国ロビーにあがってタクシーを探す、1階のタクシーに乗る場合でもメーターの有無を(もちろん目で見て)確認し、あれば回させる、といったところだろう。だが、荷物も多く長旅の後なので、交渉ごとは避け、40ドルくらい初期投資だと思って乗ってしまってもいいかもしれない。上述のように、ホテルが30ドル以内で手配してくれるなら、手配を頼んだ方が一番いいように思われる。

 

 また、中には詐欺も存在するという情報をネットで読んだことがある(私の知り合いには詐欺に遭った人はいない)。特に空港公認でないタクシーを利用する場合、当然リスクがあることは認識しておいてもいいかもしれない。